「着物ではない友禅」をまとうという提案 – 東京手描友禅の若手職人集団 × 新鋭ファッションブランドの新たな挑戦 –

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着物に使われる染色技法として知られる「友禅」

その繊細な美しさを、日常のファッションとして気軽にまとう、そんな想いから生まれたのが「友禅アートブラウス」です。

このプロダクトを手がけたのは、ファッションブランド〈KARMA et CARINA〉と、東京手描友禅の職人集団〈ユキヤ株式会社〉

着物離れが進む現代において、日本の伝統技術を“ふだん着の工芸品”として再提案することを目指し、両者が手を取り合いました。

職人が手描きした図案から染めた原画をもとに、エプソン社の最新デジタル捺染機を活用し高精細に染めを再現。手描きの美しさを損なうことなく、品質と量産性を両立した新しい取り組みでもあります。

今回は、プロジェクト誕生の背景から制作の舞台裏、そして伝統工芸の未来への想いまで、〈KARMA et CARINA〉の北迫 秀明さんと、〈ユキヤ株式会社〉の大野 深雪さんにお話を伺いました。

東京手描友禅とは

まず最初に「東京手描友禅」について、教えていただけますでしょうか?

(ユキヤ株式会社:大野さん)

東京手描友禅は、東京都を中心に発展してきた日本の伝統的な染色技法のひとつです。

最大の特徴は、職人が下絵から彩色、仕上げに至るまで、すべての工程を一貫して手作業で行う点にあります。

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繊細な筆遣いで描かれる写実的な図案や、透明感のある色彩表現は、手描きならではの魅力だと思います。

都会的な洗練さと、江戸文化の粋が溶け合ったデザインは、他の地域の友禅とはまた異なる個性を放っていて、東京手描友禅ならではの美しさがあると感じています。

また、図案の自由度が高いのも特徴のひとつです。伝統的な和の模様に加えて、現代的な意匠も積極的に取り入れられており、時代やスタイルを超えて、多様な美しさを生み出してきました。

染色の際は、一色ずつ丁寧に色を挿し重ねることで、深みや奥行きのある表現が可能になります。そのため、完成した作品はどれも一点物としての輝きを持ち、身にまとう人の個性を引き立ててくれる、そんな魅力があると思っています。

「特別」ではなく「日常」に友禅を

今回の「友禅アートブラウス」は、どのような想いから始まったプロジェクトだったのでしょうか?

(KARMA et CARINA:北迫さん)

着物や伝統工芸に馴染みのない方でも、自然に手に取ってもらえるアイテムを作りたいという想いが出発点でした。

友禅の繊細な美しさや職人技を、ハレの日だけでなく、日々の暮らしの中でも感じてもらいたい。そんな願いを込め、デザインやシルエットにもこだわりました。

伝統を前面に押し出すのではなく、それでいて手描き友禅ならではの唯一無二の魅力をさりげなく取り入れることで、誰もが自分らしく楽しめる一着を目指しました。

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“素材”ではなく“本質”に触れる出会い

KARMA et CARINAとユキヤ株式会社の出会いや、コラボに至った経緯を教えてください。

(KARMA et CARINA:北迫さん)

私は、もともと柄物が好きだったこともあり、ユキヤさんの手描友禅の技術に一目惚れし、東京都の事業者同士のマッチングイベントでお話しする機会をいただきました。

よく海外ブランドが日本の工芸を「素材」として取り入れる例はありますが、そうした取り組みは本質的な課題解決に至っていません。

日本の伝統工芸自体がラグジュアリーブランドとして進化するべきだと考えていたので、その想いを伝えしました。日本の伝統工芸自体は、海外ブランドに引けを取らない技術を持っているからこそ、その技術を活かして進化しなければ、需要も後継者も失われてしまう、そんな私の考えに共感してくださったのが、ユキヤさんでした。

工芸の再生は、商品開発だけで完結するものではなく、PRや販路開拓なども含めて、二人三脚で継続的に取り組む必要があると思います。

今回、ontowaさんにインタビューしていただいているのも、その二人三脚の取組みの一環ですね。 ユキヤさんとは思想的にも共通する部分が多かったため、コラボにいたるまでは自然な流れだったような気がします。

(ユキヤ株式会社:大野さん)

北迫さんが手がける作品のシルエットの美しさや流れるようなドレープ、そして色彩や柄の組み合わせの洗練にも強く惹かれました。

以前拝見した武州正藍染の作品からも、工芸品そのものへの深い敬意と理解が感じられ、クラフトマンシップが細部まで息づいていることを実感しました。

こうした経験が、今回の友禅アートブラウスの企画においても大きなインスピレーションとなっています。

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職人とデザイナー、対等な創造のパートナーとして

今回のコラボレーションにおいて、特に大切にされたことは何でしょうか?

(KARMA et CARINA:北迫さん)

日本の着物文化は素晴らしい文化であることは勿論ですが、これだけ欧米化した日本社会で、着物文化を現代にそのまま持ち込むのは難しい面もあります。

だからこそ、着物以外の形で東京手描友禅の技術を生かすことが、未来への継承につながると考えました。

私は、商品企画においては、双方の意見を取り入れることが常に重要だと思っています。デザイナーが一方的に全てデザインを決めるのではなく、柄に関しては、職人さんの感性を引き出すように心がけました。

花のイメージや意見を伝える程度にとどめ、職人のお二人がどのように”洋花”を東京の伝統工芸で表現するのかはお任せしました。

結果として、和柄を使わずに日本らしさを表現する、今の時代にふさわしい美しさに辿り着けたと思っています。

(ユキヤ株式会社:大野さん)

私たちも着物を現代の生活様式にそのまま取り入れるのは難しいと感じています。

伝統の枠にとらわれず、デジタル友禅の技術を使って新たな形に昇華させる。それが私たちの挑戦でした。

服そのもののデザインについては北迫さんの美意識と独自の発想に全幅の信頼を置いてお任せし、私たちは職人として、その美しさを最大限に引き出すことに専念しました。

伝統工芸の技術と現代的な感性が融合することで、既成概念にとらわれない新しい美しさを追求できたのではないかと思います。

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職人の手で描かれる、東京手描友禅の繊細な工程

今回のブラウスでは、一部工程をデジタル化されたとのことですが、まず、すべて手作業で制作される場合には、東京手描友禅はどのような工程を経て仕上げられるのでしょうか?

(ユキヤ株式会社:大野さん)

東京手描友禅の工程は、その工程のすべてを職人の手仕事で仕上げていく点に、大きな特長があります。

まず、上質な絹の白生地に、図案を下絵として丁寧に描き写すところから始まります。

次に、その図案の輪郭線を「糸目糊(いとめのり)」という糊で描き、染料がにじまないように保護していきます。この糊置きの工程が、後の彩色を美しく仕上げるための重要な下準備となります。

その後、職人が筆を用いて一色ずつ染料を挿していきます。花びらのグラデーションや葉の陰影など、微妙な濃淡や色の重なりを自在に表現することで、図案に命が吹き込まれていきます。

彩色が終わったら、生地を蒸して色をしっかりと定着させ、水洗いによって糊や余分な染料を洗い流します。場合によっては、金銀箔を施したり刺繍を加えることもあります。すべての工程を職人が一貫して手仕事で仕上げられます。

深い奥行きと透明感のある色彩、そして筆致のぬくもりが宿る、唯一無二の仕上がりになります。

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手描きの美しさをそのままに – デジタル捺染という新たな挑戦 –

そのような繊細な工程のなかで、今回のブラウス制作では、どの部分がデジタル化されたのでしょうか?

(ユキヤ株式会社:大野さん)

まず、図案は必ず手描きで制作し、一度必ず原画として染めています。

それをそのままスキャンしてデジタルデータに変換した上で、最新のデジタル捺染機を使って布地に出力するという手法を取り入れました。

これまで手描き友禅は大量生産には向いていませんでしたが、このプロセスを取り入れることで、手描きの質感や表現を保ったまま、量産が可能となりました。

東京手描友禅は本来、大量生産には向かない技法です。

このプロセスを取り入れることで、職人の手による表現を損なうことなく、より多くの人にその魅力を届けられるようになったと感じています。

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デジタル捺染について、特にこだわった点や、難しかった点があれば教えてください。

(ユキヤ株式会社:大野さん)

デジタル捺染において、何よりも大切にしたのは、職人の手による色彩の微妙なニュアンスや濃淡を忠実に再現すること、そして布そのものが持つやわらかな風合いや立体感です。

原画の色合いが生み出す繊細なグラデーションや、筆致による表情を損なわないよう、スキャン時からデータ調整に細心の注意を払い、何度も色校正を重ねてようやく納得のいく仕上がりにたどり着けました。

デジタルの導入によって、職人の役割にも変化があったと感じますか?

(ユキヤ株式会社:大野さん)

はい、従来は「描くこと」そのものが職人の主な役割でしたが、現在では「表現を見極め、監修する」立場へと変化しつつあると感じています。

デジタル捺染の導入により、大量生産や短納期への対応が可能になったほか、複雑な図案の保存・編集・複製が容易になり、表現の幅も大きく広がりました。また、長年培ってきた図案や技術をデジタルアーカイブ化できるようになったことも、後継者不足への対策や伝承の新しい形として、様々な課題に対する一つの答えになると考えています。

ただし、同時に「模倣のリスク」や「オリジナリティの確保」といった新たな課題も出てきました。だからこそ、これからの職人には、手仕事だけでなく、デジタルツールの知識や編集スキル、そしてディレクション力も求められる時代になると実感しています。

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表現力を支えるデジタル捺染機「Monna Lisa」の存在

今回、使用されたデジタル捺染機「Monna Lisa」についても教えていただけますか?

(ユキヤ株式会社:大野さん)

今回採用したエプソン社の「Monna Lisa(モナリザ)」は、非常に高い解像度と色再現力を持つ最新のデジタル捺染機です。

手描き友禅特有のぼかし」「にじみ」「筆致の揺らぎ」といったアートとしての図案表現を細部まで美しく再現できる点が大きな魅力でした。

とくに感動したのは、色指定や図案の微調整に対する対応力の高さです。モナリザは優れたカラーマネジメント機能を備えており、職人の感覚的な色のニュアンスも、限りなく近いかたちで再現してくれます。

「職人が監修し、アートを量産する」という今回の制作スタイルにおいて、品質を安定して保つうえで欠かせない存在でした。

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実際の仕上がりをご覧になって、いかがでしたか? また、伝統的な表現を再現するうえで、技術的に「助けられた」と感じた点があれば教えてください。

(ユキヤ株式会社:大野さん)

実際に仕上がりを確認した際、素晴らしいクオリティで、これならばいけると確信しました。

細やかな色の階調や筆致の表現までもが忠実に再現されており、従来の手描き友禅と遜色ない出来栄えに、デジタル技術の進化を強く実感しました。

従来の手作業では量産が難しかった繊細なグラデーション表現も、モナリザを使えば高精度かつ安定して再現できる点は非常に助かりました。

特に微妙な色の移ろいや複雑な階調を大量生産で均一に表現できることで、職人の理想を損なうことなく、効率的な製作を実現できたと感じています。

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「着物」の枠を越えて“日常に息づくファッション”としての友禅

「友禅=着物」というイメージを超え、日常のファッションとして提案するにあたり、デザイン面ではどのような工夫をされたのでしょうか?

(KARMA et CARINA:北迫さん)

今回は、和服の要素からは離れる必要があると考え、一般消費者の方を対象に、「シャツなど”定番の洋服”以外で興味のあるアイテムについて」、私のブランドでアンケートを実施しました。

その結果、最も多くの声が寄せられたのが、今回採用した“ロングテールブラウス”というシルエットでした。この結果をもとにユキヤさんに提案し、協議を経てデザインを決定しました。

マーケティングに基づいた開発というのは、伝統工芸の世界ではまだ珍しいアプローチかもしれません。でも今回は、その視点を取り入れたことでとても意味のある成果につながったと感じています。開発段階で実施したテストマーケティングでは、サンプルを店頭に展示した際、「すぐに買いたい」と声をかけてくださる方もいて、本当に嬉しかったですね。

伝統工芸と現代ファッションの融合を目指す上でも、このようなマーケット起点のものづくりは、これからの時代に必要な考え方だと思いますし、取り入れてよかったと実感しています。

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柄として選ばれた「ミモザ」と「カラー」の花には、どのような意味が込められているのでしょうか?

(KARMA et CARINA:北迫さん)

「ミモザ」は、国際女性デーの象徴として広く知られている花です。もうひとつの「カラー」は、修道女の襟元を思わせる清らかな形が名前の由来とされていて、かつて修道院が“学びの場”でもあったことにちなみ、「女性の知性と自由な学び」への願いを込めて選びました。

あえて“和の要素”をおさえ、“洋花”をモチーフにしたのは、今回の友禅アートブラウスが、現代社会の中で自然に着ていただけるような存在になるために必要な選択だと考えたからです。

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友禅の原画制作において、特に工夫された点や、苦労されたことがあれば教えてください。

(ユキヤ株式会社:大野さん)

今回の原画制作では、最終的にデジタル捺染で製品化することを見据えて、データ化しやすいようにパーツごとに分けて染めるという工夫を取り入れました。

この方法によって、スキャン後にデジタル上で自由に構成を組み替えたり、色を変更したりすることができるので、色や柄のバリエーションの展開も柔軟にできます。

こうした工程は、伝統工芸の手仕事と現代的なデジタル技術を融合させる上で欠かせない試みだったと感じています。

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試作から製品化への歩みの中で

試作から製品化に至るまで、特に印象に残っている出来事があれば教えてください。

(KARMA et CARINA:北迫さん)

友禅柄を入れた生地を、ユキヤさんから工場に送っていただいた際の出来事です。

ユキヤさんにとって初めての本格的なアパレル製品だったので、型紙(パターン)上で衿やカフスが1枚しか描かれていないものを、そのまま1枚と計算されていました。

しかし実際に洋服を作る際には、パターン上で1枚しか描かれていなくても、布の裁断の時点で重ねて裁断をし、2枚必要なパーツがあるため、「布が足りません!」と工場から連絡があり、大野さんが少しパニックになっていたのが印象に残っています(笑)

私も事前に説明しておらず、大変申し訳なかったと思います。

また、今回ご協力頂いている外部の縫製工場さんは、世界的なブランドの縫製を手掛ける工場で、通常は新規でお願いするのは難しいそうです。

先日、ファッション誌の方とお話しした際に、その工場でお願いをしたという話をしたら、驚いておられました。工場の方々は臨機応変に対応してくださり、大変助けられました。

「伝統工芸×現代ファッション」という私たちの企画に、新しい可能性を感じてくださったのだと思います。

製品化に至るまで、バイヤーの方や一般消費者の方からもテストマーケティングを通じて貴重なご意見をいただきました。

コレド室町で行ったテストマーケティングでは、サンプル1着の展示だったのですが、「いますぐに買いたい」と言ってくださる一般のお客さまからのお声や、「手間暇を考えると安いくらいだ」と言って下さるバイヤーの方のお声など、様々な方に励ましの声を頂きながら製品化が進んだことが、とても印象に残っています。

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これからの展開と想い

今回のプロジェクトを経て、今後の展開についてどのようにお考えですか?

(KARMA et CARINA:北迫さん)

今回の取り組みを通じて、新たな商談の機会もいただいています。

日本の伝統工芸のラグジュアリーな部分を展開する場として、私たちの考え方と非常に親和性が高く、これまでの伝統工芸の分野にも、ファッション業界にもなかった、新しい展開が出来るのではないかと、期待しています。

伝統工芸に関心を持ってくださる方々も、少しずつですが確実に増えている実感があります。

今回のコラボレーションも、単なる製品開発で終わらせるのではなく、これからもユキヤさんと二人三脚で歩みながら、反応を見て次の展開につなげていきたいと思っています。

先日、パリコレに関わるファッション誌の記者の方に、モデル着用の写真をお見せしたところ、偶然セットアップのようなスタイルになっていたのを見て「とても素敵ですね」とお褒めいただきました。今後は、そうした展開も視野に入れていけたらと考えています。

(ユキヤ株式会社:大野さん)

私たちも同じく、今後も新しい製品づくりに取り組んでいきたいと思っています。

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最後に、大切にしている姿勢や信念があればお聞かせください。

(KARMA et CARINA:北迫さん)

伝統工芸は私にとって“素材以上”の存在です。 単なる装飾ではなく、時を超えて引き継がれる精神、美意識、そして物語が息づいています。

それらをもとに服づくりやデザインを行うことは、伝統工芸の素材や技法に宿る物語を「現代に翻訳する」営みだと考えています。

​また、伝統工芸は歴史の中で、人々の生活の中で製品として売買され、活かされてきました。しかし現在では、文化的価値ばかりが強調され、商品としての役割を見失っているものも少なくありません。

「伝統工芸を、現代の商品として再生する」という考えは、最近思いついたことではありません。15年ほど前に訪れた街で、地域の伝統産業の衰退と共に、街の活気が失われていく様子を見聞きしたことがきっかけです。

それ以来、ファッションを通して社会にどのように貢献できるのかを常に考えてきました。

伝統工芸の再生につきましては、ヒントになった印象的な言葉があります。

海外のバイヤーが言った言葉ですが、
「なぜ日本人は、現代社会で“和の暮らし”をしていないのに、海外の展示会に来る時だけ“和”の商品を持ってくるのですか?」

この言葉は、リアルな日本の生活に即していない製品に対する違和感を端的に示しており、そうしたものはお土産以上の価値を見出してもらうのが難しいのだと感じました。

だからこそ、伝統工芸を未来へつなぐためには、まず「今の暮らしの中で活かせるもの」である必要があると思います。

和の要素を抑えつつも、現代の感性で現代の日本を表現する。

そうした視点を持ちながら、マーケティングを重視して開発した今回の「友禅アートブラウス」は、その一つの具体的な答えになったと思っています。

(ユキヤ株式会社:大野さん)

私たちは「工芸品は使われてこそ生きる」という信念を大切にしています。

伝統に固執するのではなく、時代や人々の暮らしの変化に合わせて柔軟に進化させることが、これからの工芸には欠かせないと考えています。

伝統に固執するのではなく、時代の変化や人々の生活様式に合わせて柔軟に進化させることを常に心がけています。

工芸品が現代の暮らしと響き合い、日常の中で手に取られることでこそ、本来の魅力や力が発揮される。そう信じて、素材やデザイン、用途の面でも、これまでの枠にとらわれない新たな挑戦を続けていきたいと思っています。

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【公式特設サイト】
https://www.karmacarina.com/tokyo-tegaki-yuzen

編集後記

伝統的な工芸と聞くと、多くの人が「職人が一から十まで手仕事で仕上げる」という姿を思い浮かべるのではないでしょうか。

だからこそ、「デジタル」という言葉と伝統工芸が並ぶと、違和感を覚える方も少なくないはずです。

同じように、「友禅」と聞けば、まず着物が思い浮かびます。ブラウスと友禅を結びつける発想は、多くの人にとって意外かもしれません。

今回、北迫さんと大野さんにお話を伺ったこのプロジェクトは、まさにそうした既成概念を打ち破る“攻め”のアプローチでした。

伝統工芸が抱える課題を解決するには、こうした実験的な試みが必要なのかもしれません。誰かが挑んでみなければ、その結果はわからない、そんな世界です。

インタビューで伺った東京手描友禅は、「職人が下絵から彩色、仕上げに至るまで、すべての工程を一貫して手作業で行う」ことが最大の特徴であり、根幹ともいえる価値観だといいます。

その一部をあえてデジタル技術に置き換えるという選択は、大胆でありながらも未来を見据えた勇気ある決断だと感じました。

工芸の世界には多様な想いや信念があり、そのアプローチもさまざまです。日本の工芸は決して一枚岩ではなく、それぞれの土地や文化、時代の空気を映しながら、静かに歩みを続けてきました。

その多面的で豊かな世界の中で、今回のような取り組みはひときわ異彩を放っています。

特に心に残ったのは、大野さんの言葉です。

「これからの職人には、作るだけでなくプロデュースする力も必要になる」

職人の口からこの言葉を聞いたのは初めてであり、その試みがすでに動き出しているという事実に、大きな期待を感じました。

私たちは以前「私たちの伝統とは」というエッセイの中でもスタンスを示してきました。

伝統とは「過去のかたちをそのまま残すべきもの」ではなく、時代ごとの暮らしや価値観の中で育まれた知恵や工夫、人々の感性や想いが息づいた“生きた文化の結晶”だと考えています。

だからこそ、現代の感性や暮らしにふさわしいかたちで再解釈し、新たな価値を加えて受け継いでいくこともまた、真の継承の一つであると。

変わらず受け継がれる伝統もあれば、かたちを変えて続いていく伝統もあります。その両方が共に存在することこそ、日本文化のかけがえのない価値だと信じています。

今回の「友禅アートブラウス」は、まさにこの「伝統の真の継承」を体現したプロジェクトで、お話を伺い私たちも大きな勇気をいただけたように思います。

伝統の技術や価値観と、現代の技術や感性が出会ったその先に、どんな新しい美しさや価値が生まれていくのか。

その未来を心から楽しみにしながら、これからの活動も引き続き注目していきたいと思います。

プロフィール(敬称略)

ユキヤ株式会会社/ 大野深雪
https://www.yuzen-yukiya.com

本社:神奈川県横浜市
代表取締役 大野深雪
取締役 町田久美子

両名とも坂井教人・長澤龍二氏に師事

全国染織作品展など受賞多数
東京都工芸染色協同組合正会員・理事
一般社団法人大田区伝統工芸発展の会会員・大田区伝統工芸士(町田)

町田久美子は有限会社マチダの代表取締役としても活動
https://www.machida1968.com/

KARMA et CARINA(カルマ・カリーナ)
https://www.karmacarina.com

本社:埼玉県さいたま市
代表:北迫秀明

ESMOD PARIS エスモード・パリ卒
劇団四季/衣裳部、松竹衣裳/デザイン室等を経て独立
2018年 KARMA et CARINAローンチ
2021年 神戸コレクション、ポップアップショップ
2024年 伝統工芸とのコラボレーションで商品開発を開始
2025年 関東経済産業局支援のもとEXPO2025大阪関西万博「共創チャレンジ」「未来航路」に登録

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