大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

Windows 10のサポート終了まであと100日。移行に“出遅れない”ための最短ルートとは?

米Laplinkのトーマス・コールCEO

 2025年10月14日に、Windows 10のサポートが終了するまで、ちょうど100日となった。サポートが終了すると、Microsoftからセキュリティ更新プログラムが提供されなくなるため、脆弱性の修正が行なわれず、危険な状態でPCを使用することになる。日本マイクロソフトでは、最新バージョンであるWindows 11への移行を促しているところだ。

 現時点では、大手企業を中心にかなりの移行が完了していると見られるものの、中小企業には、まだ多くのWindows 10搭載PCが残っているのが現状だ。これらの企業からは、新たな環境へのデータ移行の手間や時間、コストの負担が大きい点を課題にあげる声があがっている。データ移行やアプリケーション移行の課題は、新たなPCに乗り換える際には重要な課題の1つだ。

 そこで、Windows 10のサポート終了を前に、国内で累計出荷1,300万本の出荷実績を持つAIデータのPC移行ツール「ファイナルパソコン引越し」シリーズの開発元である米Laplinkのトーマス・コールCEOに、PC移行ツールを活用するメリットなどについて聞いた。

中小企業のWindows 11への移行はこれからが本番

 2025年7月7日に、Windows 10のサポート終了まで残り100日を迎えた。

 業界筋では、過去のWindowsのサポート終了時に比べると、前倒しで新たなOSへの移行が進んでいるとの見方がある一方で、中小企業や個人ユーザーの移行は、むしろこれからが本番との指摘もある。

 Statcounterによると、2024年2月時点で、日本国内におけるWindows11の利用率は45.17%となり、Windows 10の利用率は50.88%となっている。

 また、Windows 10が稼働しているPCでも、古いPCの場合は、スペックの関係などから、新たなPC本体への買い替えが推奨されており、個人向けPCの場合、本体の買い替えが必要なユーザーは、約半分を占めるという試算もある。

 所有しているWindows 10搭載PCがそのままWindows 11でも利用できるかどうかは、日本マイクロソフトが提供している「PC正常性チェック」アプリでチェックが可能だ。

 チェックした結果、新たなPCへの移行が推奨された場合には、PCの買い替えなどを検討する必要があるだろう。

 この時に、大きな課題となるのが、アプリケーションやデータ、設定環境の移行である。

米Laplinkのトーマス・コールCEO

 コールCEOは、移行の課題を次のように語る。

 「Microsoftからは、アプリケーションやデータ、設定の移行に対応する包括的なツールの提供がないため、PCの移行には多くの時間がかかってしまう。一般的なユーザーは、仕事を止めて、手作業で移行を行ない、そのための業務のダウンタイムは3時間を超えると言われている。

 特に、法人ユーザーからは、Active DirectoryからEntra IDへの移行に対応するソリューションを提供していないことに苦情の声が挙がっている。また、使用している数多くのアプリケーションの移行作業も伴うことになる。

 10万人の社員がいる企業であれば、約千種類のアプリケーションの移行を考えなくてはならず、その作業に多くのITリソースが必要となる。また、部門の違いによる転送シナリオやイメージが異なるといった繁雑性もある。さらに、新たなOS環境へ移行したあとは、IT部門に対して、操作や設定などに関わる問い合わせが増え、サポート作業が増加することになる。新たなOSへの移行に伴って発生する負荷を少しでも軽減することが重要になる」とする。

 また、「個人ユーザーは、新たなOSに移行する必要について、理解が遅れている。特に日本は、世界に比べてもWindows 10を利用している比率が高い。なぜ、新たなOSに移行しなくてはならないのか、といったことをしっかりと伝える必要がある」とし、「ネットにつないだ途端にセキュリティリスクに直面すること、攻撃者は簡単にマルウェアを仕込むことができるようになることを知っておくべきだ」と警鐘を鳴らす。

 「それを回避するために、ESUプログラムに加入して延命する方法もあるが、個人ユーザーは年間30ドル、法人ユーザーは初年度に61ドル、2年目には倍額の122ドル、3年目にはさらに倍額の244ドルも支払う必要がある。新機能が追加されないことに加え、4年以上経過したPCは修理する確率が2.7倍も高まり、生産性も低い。現実的な選択肢ではない」などと述べた。

“飲みかけのコーヒー”まで引っ越す必要はない

ファイナルパソコン引っ越しの画面

 米Laplinkは、PC移行ソフト「PCmover」を開発、販売しており、MicrosoftやIntelのほか、Dell、Lenovo、HP、LG、Samsungなどが推奨しているPC移行ツールだ。

 22カ国語で提供されており、日本では、2006年から、AIデータが「ファイナルパソコン引越し」シリーズとして販売。企業、政府、医療、教育分野など、幅広いユーザーが活用しており、国内累計で1,300万人以上のデータ移行をサポートしてきた実績を持つ。

 コールCEOは、「幸いなのは、Windows 10からWindows 11に移行しても、アプリケーションの互換性にはあまり問題がないということだ。Windows XPからWindows 7に移行した際には、約半分のアプリケーションが使えなくなったことに比べると影響は少ない。個人ユーザーが家を引っ越す際に、すべての家具を捨てて、その家にあわせた新しい家具に買い替えるなんてことはあり得ない。これと同じことは起きない」とした。

 「ただし、従来の移行時よりも、PC 1台あたりのデータが増加し、使用しているアプリケーションも増え、複雑化している。使用しているアプリケーションが100種類以上という法人ユーザーも少なくない。そのため、移行にかかる時間は増加し、繁雑化している。ますます移行ツールを活用するメリットが大きくなっている」と述べた。

 移行ツールを活用するメリットとして、迅速な移行ができること、必要なデータと不要なデータを分類して移行できることなどを挙げる。

 「Microsoftでは、OneDriveを活用してデータを移行するという手法を提案しているが、それは、東京から京都まで、新幹線を使わずに、自転車で行くようなものだ。時間がかかりすぎて、すべてのデータをクラウドにバックアップすることができず、データが取り残されてしまうという課題も生まれやすい。

 しかも、その作業が完了したとしても、次はアプリケーションやユーザープロファイルなどの移行の問題が残る。マイクロソフトのアドバイスは決していいものではない。AutopilotやIntuneの提案は素晴らしいが、移行における提案だけは課題がある」と指摘。

 また、「ユーザーがデータを詳細に分類し、選択し、必要なデータだけを移行できるツールが求められている。すべてを移行する必要はなく、新たな環境には必要なものだけを移行すればいい。私がMicrosoftに入社したとき、ドイツから米シアトルに引っ越しをしたが、梱包のすべてを業者に任せたら、飲みかけのコーヒーまで入っていた。Microsoftの提案では、これと同じことが起こりかねない。Microsoftが移行するデータを選ぶのではなく、ユーザー自身が移行するデータを選ぶことができるツールが必要だ」とした。

ファイナルパソコン引越しの操作方法

 その上で、「こうした機能を持っているのは、いまのところ、『ファイナルパソコン引越し』しかないと考えている。競合はない」と断言してみせた。

ファイナルパソコン引っ越しの特徴とは?

 「ファイナルパソコン引越し」では、古いPCと新しいPCのそれぞれに、アプリケーションをインストールし、LANケーブルや専用USBケーブルで接続するか、Wi-Fi環境で接続することで移行が行なえる。従来は、Wi-Fiを利用した際に、ネットワークの品質や状態が分かりにくかったが、これも表示されるようになっている。あとは、画面に従って、クリックするだけでデータ移行ができる。

 「法人ユーザーによっては、セキュリティの問題からケーブルで作業をしたいという場合もある。一方で、効率性の観点から、ネットワークで作業をやりたいというニーズもある。どれらの要望にも応えられる」とする。

 移行元と移行先のドライブ名の違いや、データの格納場所などを自動的に判別して移行する一方で、自分でデータの取捨選択や移行先の変更などを細かく設定することも可能だ。また、移行の結果、予期しない問題が発生したり、何らかの理由で移行前に戻したくなったりした場合には、移行する前の状態に戻すこともできる。

 さらに、法人ユーザーの場合は、社内サーバーや各種メディアなどを利用したファイルベースの移行が可能であり、アプリケーションや設定を、新たなPCにそのまま移行できる。この機能を利用することでOSのリフレッシュも可能になる。

エンタープライズの移行シナリオ
エンタープライズ顧客

 ちなみに、移行したアプリケーションのすべてが新たなOSで利用できるわけではないことも考慮している。「ファイナルパソコン引越し」では、PCの分析が終ったあとに、「引越しする内容の選択」に移行できないアプリケーションが含まれているかどうかを確認し、もし含まれていたら、リストから外して、必要に応じて、引越し作業後に、新たなアプリケーションをインストールし直すことができる。不要なアプリケーションの移行をブロックする機能も搭載しており、これも「ファイナルパソコン引越し」の特徴の1つだとした。

 また、イメージ&ドライブアシスタント機能を利用することで、すでに古いPCの画面が表示できない場合などにも、HDDやイメージから、新たなPCに、データやアプリケーション、設定を移行できることも示した。

 企業ではポリシーに則って移行する必要があるが、それが40ページ以上に渡っている場合や、人事や法務、総務部門となでは、営業部門などとは異なるポリシーが設定されている場合があることを引き合いに出しながら、「それらのポリシーに準拠するため、準備に2~3週間かかってしまうケースもある。『ファイナルパソコン引越し』では、そうした複雑なポリシーにも対応し、迅速に移行準備ができる。事前に、引っ越しルールをポリシーマネージャーで定義することもできる」とも述べた。これは、enterprise版で提供している機能で、50台以上のPCを移行する企業などに適している。

ファイナルパソコン引越しenterprise版の移行方法

 一方で、PCの動作に影響を及ぼすセキュリティソフトは、データ移行の作業時には無効の設定にするとともに、セキュリティソフトの移行は行なわないようにしていること、プリンタやスキャナなどの周辺機器のドライバについても、そのまま移行しても、新たなOSに対応していない場合もあるので、意図的に移行しないようにしていること、さらに、PCメーカー固有のアプリケーションとして最初から搭載されているものも移行対象から外していることも示した。

 コールCEOは、「Microsoftが提案するOneDriveを使用したデータ移行に比べると、『ファイナルパソコン引越し』による移行方法は多岐に渡っている」と改めて強調したものの、「あまり細かいことをユーザーに説明しても分かりにくい。簡単にすべてのものを移行できるツールであるという、一言だけを伝えている」と笑う。

 同社によると、法人ユーザーが、ファイナルパソコン引越しを使用することで、手作業に比べて3~5時間の時間削減と、PC 1台あたりで300ドルのコスト削減ができると試算している。

日本の声を製品にフィードバック

 「ファイナルパソコン引越し」は、日本においは、AIデータを通じて、累計出荷1300万本の出荷実績を持っており、開発元のLaplinkにとっても重要な市場だ。

 AIデータが自社ブランドの製品として、「ファイナルパソコン引越し」を販売。独占販売契約となっていることから、PCメーカーがインストールして販売したいといった場合も、AIデータを通じた契約になるという。

 コールCEOは、「AIデータの佐々木隆仁社長に、長年に渡って言われてきたのは、常に品質のことである。そのために、テストを厳しく行なっている。ほかの国からは出てこないようなバグの指摘が、日本からは出てくる。また、日本から出てくるリクエストに対しても、真剣に検討し、製品に反映している。

 Laplinkが開発した製品を、日本語にローライズし、AIデータに売ってもらうという単純な関係ではなく、両社の関係は極めてタイトであるからこそ、日本市場が求める品質にまで高めることができる。また、AIデータは、日本において自社ブランドの製品として、責任を持って販売している。こうした関係が築けているのは日本だけである。AIデータの取り組みには信頼をおいている」と語る。続けて、「日本から品質に対する要求が高く、いつもやりあうが、両者の間に、不協和音が発生したことは一度もない」と笑う。

 グローバルで販売している「PCmover」と、日本で販売している「ファイナルパソコン引越し」に違いはないが、日本からの要求を製品に反映することで、世界で販売する製品の品質や機能を高めることにつながっている。

どのアプリを移行すべきかAIが判断する機能も搭載へ

 一方で、同社では、企業のPC移行をより簡単にするために、AI機能の搭載にも取り組んでいる。

ファイナルパソコン引越しで動作するAIアシスタント

 PC移行に関して学習したAIがサポートすることで、より最適化した形で、スムーズなデータ移行などが可能になるという。今は、利用方法や細かな機能に関する自然文での問い合わせや疑問などに対して、AIが回答するというところからスタートしており、サポートセンターで対応している問い合わせなどに関しても、AIで対応できるようになる。

 コールCEOは、「ファイナルパソコン引越しによって、理解したPCの状況をAIの活用に生かすことができる。マイグレーションを行なった際の課題点を抽出したり、アプリケーションの動作に関する問題点を確認したりすることができ、それらの情報をローカルPCの中で処理し、適切な移行をサポートするといったことが可能になる」と述べた。

 また、AIデータ/AOSグループ 代表の佐々木隆仁氏は、「新たなOSの環境では、むしろ移行をしないほうがいいアプリケーションなどもある。それをユーザー自身が判断するのは難しい。また、移行先に同じアプリケーションの最新バージョンがある場合などもそれにあたる。人が判断していたものを、AIが事前に学習して対応を取ることができるようになる」としている。

 さらに複数の移行ポリシーを設定できる機能を活用しながら、AIが最適化したポリシーを設定するといった機能へのAI活用も見込まれる。

 まずは、個人ユーザー向けに提供することになり、反応を見てから、法人ユーザー向けに展開していくという。

 コールCEOは、「Windows 10のサポート終了を迎える2025年は、PC業界にとって大きな1年になる。その一方で、MicrosoftやIntelは、AI PCやCopilotに対しても、多くのマーケティング費用を投資しようとしている」としながら、「だが、目の前に訪れているWindows 10のサポート終了にもっとフォーカスし、発信すべきである。また、OneDriveだけでは、スムーズな移行ができない。マイグレーションは、多くのPCユーザーにとって重要な出来事になる。LaplinkとAIデータは、日本のユーザーのWindows 10からのマイグレーションをしっかりとサポートしていく」と述べた。